インフルエンザウイルス感染の治療の是非

f:id:koundo_clinic_VR:20191120170344p:plain

世帯を別にする息子家族で、嫁と孫に高熱がでた。発熱の以外の強い感冒様症状はない。

周囲の状況や時季的にインフルエンザウイルス感染がもっとも疑わしいが、医者にかからず薬も飲まず二日程度で解熱し、孫は学期末だったこともあってそのまま冬休みに入った。

インフルエンザの治療はどこまで必要なのか、まとめておく。

米国CDCでは、

5歳以下の小児(特に2歳以下)

②65歳以上の高齢者(私は該当する)

妊婦および産後2週以内の褥婦

慢性疾患患者気管支喘息を含む呼吸器疾患・高血圧を除く心血管疾患・腎疾患・肝疾患・血液疾患・内分泌疾患・神経疾患)

免疫不全患者

施設入所者

 を、ハイリスクグループとしている。

健康な成人や妊娠していない女性、元気な学童は抗ウイルス薬の積極的な投与は必要ない。過剰医療は医療経済の破綻の原因であることを認識しなければならない。

インフルエンザ迅速診断キットの特異度は高いが感度は必ずしも高くないし、発症からの時間で陽性率が異なる【感度62.3%(95%CI 57.9~66.6%)、特異度98.2%(95%CI 97.5~98.7%。成人では小児に比べて感度は低く、またB型インフルエンザはA型よりも感度が低い。

高齢者に加えて、妊婦と出産直後の褥婦で重症化のリスクが高い。また妊娠第Ⅰ期の罹患は胎児の発生異常や高熱に伴う神経管開存との関連が 知られており、疑わしい場合には診断の確定を待たず、妊娠の時期にかかわらずに早期に抗インフルエンザ薬の投与が推奨されている。通常は発症後48時間以内の開始が推奨されるが、妊婦の場合にはその時期を過ぎてからの投与が必要な場合がある。

妊娠中、特に妊娠第Ⅰ期における妊婦の高熱は胎児の神経管開存や他の発生異常との関連が危惧されるため抗インフルエンザ薬とともに解熱剤の投与も重要だ。この場合アセトアミノフェンが他のNSAIDsなどに比べて影響が少ないと考えられ推奨されている。

妊婦にはすべての時期においてワクチン接種が勧められる。日本で使用されるインフルエンザワクチンは、病原性をなくした不活化ワクチンで、 胎児に悪影響を及ぼしたという報告はなく、妊婦は接種不適当者には含まれていない。また妊婦がワクチンを接種することで母体の免疫が胎盤を介して胎児に移行し感染防御を与えることが期待されている。

 * * *

今朝の全国紙の朝刊に「インフルエンザ・ハラスメント」という耳慣れない言葉が載っていた。インフルエンザに罹患しても仕事や職場を休ませてもらえないとか、休むと嫌味を言われるとか、健康管理ができていないと叱責されることをさすようだ。

インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く)は第2種の感染症に定められており、学校保健法では発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで学校への出席停止とされている。ただし、病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りでない。 一般に、成人においてもこの目安が用いられている。ちなみにインフルエンザの潜伏期は1~3日で、発症する前日からすでに感染性がある。

対症療法としての解熱剤、ことにアスピリンは、ライ症侯群との関係が推測されており、小児への使用は原則禁忌である。また、インフルエンザ脳症の悪化因子として、非ステロイド系解熱剤のうちジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸は同じく小児には基本的に使用しないように、とされている。解熱剤が必要な場合は、なるべくアセトアミノフェンを使用する。