こどもの急性上気道炎

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こどもの風邪診療の続きを書く。

夜間救急外来を受診する9割以上のこどもの主訴は発熱である。

発熱、咳嗽、鼻汁を診たら急性上気道炎を考える。

このうち発熱があれば、溶連菌感染(迅速検査)、インフルエンザウイルス(迅速検査)、アデノウイルス(迅速検査)、ライノウイルス、ヒトコロナウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス、エンテロウイルス手足口病、夏場であればヘルパンギーナ)、伝染性単核球症EBウイルスまたはサイトメガロウイルス)、突発性発疹(ヒトヘルペスウイルス6Bと7)などの感染のどれかである。

咽頭扁桃)に白苔があれば、A群溶連菌かアデノウイルス感染を疑う。溶連菌では咳嗽がないことも多い。これらの迅速検査が陰性であればEBウイルスサイトメガロウイルス感染による伝染性単核球症を除外する。頸部リンパ節腫脹があれば、肝腫大のチェックと末梢血検査(血算)が必要である。伝染性単核球症ではペニシリン系抗生剤で皮疹を誘発するため投与しない。こどもの発熱では必ず喉をみなければならないし、扁桃の白苔を診ていきなり抗生剤を投与してはならない。

発熱がなく、急性の咳嗽と鼻汁であれば、ライノウイルス(迅速検査なし)、ヒトコロナウイルス、RSウイルス(迅速検査があるが、乳児期のみ検査する意義がある)、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルスのどれかである。とくにライノウイルス感染の頻度が高いが、次に頻度が高いヒトコロナウイルスと共に、日常診療では迅速検査ができないので原因診断は難しい。

RSウイルスは迅速検査があるが、1歳以上では保険適応がない。乳児で発熱や遷延性の咳嗽、喘鳴、鼻汁が多い場合にはRSウイルスの感染が疑われる。新生児や乳児期早期では病初期に無呼吸を伴う高度のチアノーゼを呈することがあり、見逃せない感染症であるが、RSウイルス感染については別稿で詳しく記載したい。

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上気道炎症状の続いて、遷延する咳嗽では百日咳、マイコプラズマ、クラミドフィラ・ニューモニエをなどの感染を鑑別診断しなければならない。

乾性咳嗽が続き、喘鳴がなく、発熱が3日以上続く場合には、マイコプラズマあるいはヒトメタニューモウイルス感染を考える。マイコプラズマ抗原は迅速検査がある。ヒトメタニューモウイルスの迅速検査は6歳未満で肺炎が疑われれば保険適応がある。クラミドフィラ・ニューモニエには迅速検査がなく診断には血中抗体検査が必要である。胸部X線所見で肺炎像があり、聴診上cracklesを聴取しない場合にはマイコプラズマあるいはクラミドフィラ・ニューモニエ感染を念頭に置く。

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多くの急性上気道炎は抗生物質治療が不要の急性ウイルス性上気道炎であるが、A群溶連菌は抗生剤投与の適応である。ピボキシル系セフェム(メイアクトやフロモックス)は深刻なカルニチン血症を誘発しけんれんの原因となるので、第一選択はペニシリン系(アモキシシリンなど)10日間投与を選択する。

上気道感染から下気道感染に移行する、あるいは病初期からは気管支炎や肺炎で発症する発熱や咳嗽もあるので、風邪はウイルス性で自然治癒する良性疾患と侮ってはいけない。症状の経過や理学所見、迅速診断を利用して見逃しのない診療を心がける必要がある。