あらたな疫病の恐怖

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人類にとって、地球上に存在する微生物(病原体)によって引き起こされる感染症は、ごくありふれた日常的な疾病である。引き起こされる障害は、無症状あるいは軽い風邪症候群から高齢者の致死的肺炎や未開の地における未知の熱病まで、さまざまである。生きている限り、だれでもが一度は病原体の洗礼をうける。医学が進歩した現在でも、感染症は決して油断のできない疾病のひとつである。

いまからおよそ6百年前に発生したペストの流行は中世の世界人口のおよそ3分の一の命を奪った。20世紀初頭には流行したスペイン風邪(インフルエンザ・パンデミック)でも多くの死者が出た(約1億人といわれている)。医学は感染症との戦いによって進歩した。最近のパンデミックからおよそ百年近くたち、医学が進歩して、すでに多くの感感染症は人類によって制御可能な病気と思われてきた21世紀前半に、人類は新たな疫病の恐怖に晒されている。

中国武漢ではじまった新型コロナウイルス感染は3か月足らずで全世界に広がった。WHOの3月10日18時の集計では全世界で113702人の確定例(24時間で4125人増加)、死者は4012人(24時間で203人増加)となった。

人に感染症を引き起こすコロナウイルスは、日常的な風邪症候群のありふれた病原体である4種と2002年に発生したSARS重症急性呼吸器症候群2012年以降発生しているMERS(中東呼吸器症候群)を引き起こす2種を加えた6種が知られていた。7番目が今回の新型コロナウイルスSARS-CoV-2)である。引き起こされる障害はCOVID-19と命名された。

今回、瞬く間に広がった新型コロナウイルスは、おそらく蝙蝠などの野生動物由来の、人への感染が知られていなかった新型ウイルスである。感染力はインフルエンザ・ウイルスのおよそ2倍程度、感染者の8割の患者は軽症で経過し、2割が重症肺炎を呈し呼吸困難に至る可能性がある。このウイルスにはL型とS型の2種類あり、S型のよる感染は軽症に経過し、L型が重症化することが明らかになってきた。

確立した治療法はない。

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の治療薬ロピナビル・リトナビル配合薬(商品名カレトラ、すでに国内で承認されているが催奇形性があるために市販されていない国産のファビピラビル(商品名アビガン)などの抗インフルエンザ薬、気管支喘息用の吸入ステロイドシクレソニド(商品名:オルベスコなどが試みられており、一部に改善がみられたことが報告されているが、科学的な真相はこれから明らかになる段階だ。

閉鎖空間のクルーズ船での流行に引き続き、経路不明の市中感染が日に日に、世界中で多発するようになった。中国から遠く離れたイタリアでも多くの死者が出ている。全ヨーロッパに広がるのも時間の問題だろう。

おそらくパンデミックは避けられない。わが70年に及ぶ生涯ではじめて経験する疫病の恐怖である。

【追記】

3月12日朝のNHKニュースは、WHOが3月11日(現地)にCOVID-19がパンデミック(世界的大流行)に至ったと発表したことを伝えた。