沈黙の一年

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ただひたすら耐える沈黙の一年が終わろうとしている。

事態は好転したのだろうか?

未知、既知を問わず、感染症に対する切り札は、感染源を死滅あるいは体内で増殖させない抗生物質や化学物質と発症の予防をもたらすワクチンの接種である。

COVID-19ウイルスを死滅させる抗生剤が見つかっていない現在では、予防のためのワクチンだけが残された闘いの武器である。新たにこれまでとは発想のことなるRNAワクチンが短期間に欧米では開発され、これで、この先の見えない闘いも最終ステージに入ったかのように思われた。

国内でも、ようやく医療者に引き続き高齢者へのワクチン接種が始まったが、対象者の100分の1以下の提供量しか配布されず、世の中がざわついている。

医療者向けのワクチン接種も大病院や重点病院ではすでに2回が終わっているところも出始めているが、小さなクリニックにはなんの音沙汰もなく、いつできるのかまったく分からない状態であることをおそらく多くの人は知らないだろう。高齢者を除く一般人にワクチンがいつ接種できるのか今の時点では皆目不明なのが実情なのだ。

COVID-19の第3波が終わり、例年になく早い桜の時期を終えるとほぼ同時、緊急事態宣言が解除されてわずか一ヶ月足らずで、急速な患者の増加による第4波が始まった。従来株に加えて変異株の流行で、これからがこの疫病の本格的な局面を迎えることになる。息つく暇も無い展開とはまさにこのことだ。

かつてはワクチン先進国であったこの国も、いつの間にか時代遅れの浦島太郎になってしまった。自国民を守るための最低限の薬剤を提供する技術もない医療後進国に堕落してしまった姿があからさまになり、この国がリスクマネジメントのできない国であることを世界中に示すことになった。医療先進国とは名ばかりで、国の施策も薬剤業界も医学界も危険に備える姿勢がないことを如実に示す、寂しい実力が示されてしまった。

大阪、兵庫などの西日本や宮城では加速度的に患者が増加し、さらに2日前からは東京、京都、沖縄にも新たに「まん延防止等重点措置」の適用が決定された。

肝心要の武器であるワクチン接種供給の先行きが見えず、多くの国民は長引く自制と自粛で、さらにこの先のあてどのない暮らしに不安と困惑するだけの状態になっている。すでにあきらめの空気の流れはじめ、忍耐の糸が切れてしまった人々が街中に溢れるようになったしまったのは、ある意味、当然かもしれない。家にこもって息を潜めているのにも限界がある。

生きるためには屋外での生活が必要だ。山積みにしたままの仕事もしなければならない。

そんななかでオリンピックを強硬開催するという。無理なものは無理、猫の首に鈴を付ける勇気もない。

まさに狂気の沙汰という以外にない。オリンピック開催までもうあと100日と迫っている。

するべきことはオリンピックなどではなく、国民の命と健康を守ることである。

 

COVID-19第2ラウンド開始

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5月25日、全国の新型コロナウイルス感染症の感染爆発にともなう緊急事態宣言が解除された。

PCR検査、抗原検査、抗体検査など、ようやくこの感染症に対する検出や患者の感染歴に関する武器が出そろってきた。これまで医療機関とくに町のクリニックや小規模診療所ではこの病魔の姿を直接察知する手段がなくいわば無手勝流での勝負だったが、ようやく少しだけ前進がみられた。

日本臨床微生物学会、日本感染学会、日本環境感染症学会は連名で5月25日付(5月26日にインターネットで公表)で検査の位置づけを整理して発表した(http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_kensaguide052.pdf)。すべての検査には偽陽性偽陰性があり、検体の取り方や患者の状況によって正診率が異なるのが常識だ。

あわせてに日本小児科学会から2歳未満の小児にはマスクの着用はやめるべきだとの見解を公表した。窒息や熱中症の危険があると警告しており、新型コロナウイルス感染によるこどもの重症化は少ないと指摘している。

気になることこととして、外出自粛の影響で乳幼児の予防接種の受診率が2割以上低下している。知り合いのクリニックでは外来受診者が昨年の4割程度まで減少しているのが実情だ。受診の手控えで、あらたな障がい起きないかが心配だ。

COVID-19はいよいよ第2段階に入った。

新しい生活様式による新しい日常とはどんな姿なのか。言葉が先行して、実際の姿はまだ見えない。在宅業務やテレワーク、イベントや行楽、経済の立て直しなど、これからの長期戦にどのように対処するか。

まだ有効だと確定した治療薬やワクチンがない状況で、これから第2波、第3波にむけてどのような戦いができるのか、これからが本当の闘いなのだ。

この先に続く21世紀の新しい日常を、こころとからだの健全な状態を維持しながら、人類は見えない敵との戦いに勝利しなければならない。

今が新しい未来への試金石なのかもしれない。

 

COVID-19_院内感染をどう防ぐ


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世界では感染者数が200万人を越えた。

わが国では瀬戸際での戦いが続いている。緊急事態宣言による外出の自粛と三密を防ぐための国民への呼びかけによって感染爆発(オーバーシュート)はなんとか逃れてはいる。都市封鎖や交通機関の停止を行わずに自覚による自粛の呼びかけはいちおう効果があるようだ。

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緊急事態宣言(4月8日)

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昨日には緊急事態宣言が7都府県に限らず全国に広げられた。さまざま批判はあるにしろ今できることを行ったことは評価してよい。

目に見えぬ疫災に対して政府は率直に言ってよくやっていると思う。愚直と批判される「布マスク」配布も決して愚策とは思えない。

ただ今回の対応で本質的な誤りがあることを指摘したい。

わが国では診断のためのPCR検査(RT-PCR)を制限している。この点は明らかな誤りである。軽症の有症状患者や不安に駆られた市民が検査を求めて殺到することが危惧され、肝心な必要とされる患者の検査ができなくなることが予想されるので検査は一定の基準を満たさない場合には対象外としたことである。しかもその振り分けを医療者ではない行政担当者が行っていることはあきらかな誤りだ。

今するべきこと、速やかに取り組むべきことは、手技が煩雑で手数の多いこのPCR検査体制の拡充と整備ならびに医療従事者の確保である。

パンデミックにともない患者が増大しだした初期には確かに思わぬ出来事に右往左往することは仕方がない。クルーズ船プリンセスダイアモンドでの発生によりこの感染症が恐ろしい破壊力を持つことが認識された時点で、いちはやく検出のための体制整備をすすめるべきだった。

国内での患者が9千人を越えなんとかオーバーシュートの手前で収まってはいるものの、おそらくこの災難はしばらく続くと予想せざるを得ない。

後方視的批判は意味がない。これからが本当の正念場だ。

軽症者をいち早く発見し隔離し、重症者に十分な医療が提供されるように体制を強化することが今すぐに取り組むべき方策である。

これからでも遅くはない。民間機関や研究機関の協力を得て、国民の総力をあげてPCR検査に対応できる施設を整備するべきである。研究所の研究者や助手などの高度の技術を持つ技能者に協力を要請し、国内での調達が困難であるのならば、国外に協力を要請してでも検査体制を拡充するべきである。

疾患と闘うには、先手必勝が原則である。症状の有無にかかわらず一般市民の三密防止や外出自主も重要だが、なによりも軽症者を可能なかぎり早期に検出して施設や自宅に隔離することが二次感染を防ぐもっとも有効な手段である。この点で、早期診断の機会を放棄したこれまでの施策は誤りである。

もうひとつの取るべき施策は院内感染の防止と医療従事者の感染からの保護である。患者が増え続け、対応する医療者が憔悴すれば医療は崩壊せざるを得ない。

院内感染防止のための防護具や薬剤を病院に集中させ、手厚い保護器具の装着のうえ医療に臨めるように体制を整備しなければならない。定年後の退職医師や自宅にいる医療現場を離れている看護師を総動員して、コロナ感染症以外の医療支援に当てる方策を実施し、医療の疲弊を最小限に食い止めることが必要だ。そのためには十分な院内感染制御体制の構築が必要である。活力のある働き盛りの医療者には凶悪なこの感染症との闘いの最前線で奮闘してもらい、それ以外の通常の医療に対する後方支援体制を固めて医療の枯渇に備えるべきである。

いつまで続くか不明なこの戦いが一日も早く昔話になってくれることを願いたいが、知恵を絞って今できることをできるようにするべきである。目の前の困難に悩殺されて、少しだけ先のことすら見えなくなるようなことがないように心から願う。

あらたな疫病の恐怖

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人類にとって、地球上に存在する微生物(病原体)によって引き起こされる感染症は、ごくありふれた日常的な疾病である。引き起こされる障害は、無症状あるいは軽い風邪症候群から高齢者の致死的肺炎や未開の地における未知の熱病まで、さまざまである。生きている限り、だれでもが一度は病原体の洗礼をうける。医学が進歩した現在でも、感染症は決して油断のできない疾病のひとつである。

いまからおよそ6百年前に発生したペストの流行は中世の世界人口のおよそ3分の一の命を奪った。20世紀初頭には流行したスペイン風邪(インフルエンザ・パンデミック)でも多くの死者が出た(約1億人といわれている)。医学は感染症との戦いによって進歩した。最近のパンデミックからおよそ百年近くたち、医学が進歩して、すでに多くの感感染症は人類によって制御可能な病気と思われてきた21世紀前半に、人類は新たな疫病の恐怖に晒されている。

中国武漢ではじまった新型コロナウイルス感染は3か月足らずで全世界に広がった。WHOの3月10日18時の集計では全世界で113702人の確定例(24時間で4125人増加)、死者は4012人(24時間で203人増加)となった。

人に感染症を引き起こすコロナウイルスは、日常的な風邪症候群のありふれた病原体である4種と2002年に発生したSARS重症急性呼吸器症候群2012年以降発生しているMERS(中東呼吸器症候群)を引き起こす2種を加えた6種が知られていた。7番目が今回の新型コロナウイルスSARS-CoV-2)である。引き起こされる障害はCOVID-19と命名された。

今回、瞬く間に広がった新型コロナウイルスは、おそらく蝙蝠などの野生動物由来の、人への感染が知られていなかった新型ウイルスである。感染力はインフルエンザ・ウイルスのおよそ2倍程度、感染者の8割の患者は軽症で経過し、2割が重症肺炎を呈し呼吸困難に至る可能性がある。このウイルスにはL型とS型の2種類あり、S型のよる感染は軽症に経過し、L型が重症化することが明らかになってきた。

確立した治療法はない。

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の治療薬ロピナビル・リトナビル配合薬(商品名カレトラ、すでに国内で承認されているが催奇形性があるために市販されていない国産のファビピラビル(商品名アビガン)などの抗インフルエンザ薬、気管支喘息用の吸入ステロイドシクレソニド(商品名:オルベスコなどが試みられており、一部に改善がみられたことが報告されているが、科学的な真相はこれから明らかになる段階だ。

閉鎖空間のクルーズ船での流行に引き続き、経路不明の市中感染が日に日に、世界中で多発するようになった。中国から遠く離れたイタリアでも多くの死者が出ている。全ヨーロッパに広がるのも時間の問題だろう。

おそらくパンデミックは避けられない。わが70年に及ぶ生涯ではじめて経験する疫病の恐怖である。

【追記】

3月12日朝のNHKニュースは、WHOが3月11日(現地)にCOVID-19がパンデミック(世界的大流行)に至ったと発表したことを伝えた。

 

 

インフルエンザウイルス感染の治療の是非

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世帯を別にする息子家族で、嫁と孫に高熱がでた。発熱の以外の強い感冒様症状はない。

周囲の状況や時季的にインフルエンザウイルス感染がもっとも疑わしいが、医者にかからず薬も飲まず二日程度で解熱し、孫は学期末だったこともあってそのまま冬休みに入った。

インフルエンザの治療はどこまで必要なのか、まとめておく。

米国CDCでは、

5歳以下の小児(特に2歳以下)

②65歳以上の高齢者(私は該当する)

妊婦および産後2週以内の褥婦

慢性疾患患者気管支喘息を含む呼吸器疾患・高血圧を除く心血管疾患・腎疾患・肝疾患・血液疾患・内分泌疾患・神経疾患)

免疫不全患者

施設入所者

 を、ハイリスクグループとしている。

健康な成人や妊娠していない女性、元気な学童は抗ウイルス薬の積極的な投与は必要ない。過剰医療は医療経済の破綻の原因であることを認識しなければならない。

インフルエンザ迅速診断キットの特異度は高いが感度は必ずしも高くないし、発症からの時間で陽性率が異なる【感度62.3%(95%CI 57.9~66.6%)、特異度98.2%(95%CI 97.5~98.7%。成人では小児に比べて感度は低く、またB型インフルエンザはA型よりも感度が低い。

高齢者に加えて、妊婦と出産直後の褥婦で重症化のリスクが高い。また妊娠第Ⅰ期の罹患は胎児の発生異常や高熱に伴う神経管開存との関連が 知られており、疑わしい場合には診断の確定を待たず、妊娠の時期にかかわらずに早期に抗インフルエンザ薬の投与が推奨されている。通常は発症後48時間以内の開始が推奨されるが、妊婦の場合にはその時期を過ぎてからの投与が必要な場合がある。

妊娠中、特に妊娠第Ⅰ期における妊婦の高熱は胎児の神経管開存や他の発生異常との関連が危惧されるため抗インフルエンザ薬とともに解熱剤の投与も重要だ。この場合アセトアミノフェンが他のNSAIDsなどに比べて影響が少ないと考えられ推奨されている。

妊婦にはすべての時期においてワクチン接種が勧められる。日本で使用されるインフルエンザワクチンは、病原性をなくした不活化ワクチンで、 胎児に悪影響を及ぼしたという報告はなく、妊婦は接種不適当者には含まれていない。また妊婦がワクチンを接種することで母体の免疫が胎盤を介して胎児に移行し感染防御を与えることが期待されている。

 * * *

今朝の全国紙の朝刊に「インフルエンザ・ハラスメント」という耳慣れない言葉が載っていた。インフルエンザに罹患しても仕事や職場を休ませてもらえないとか、休むと嫌味を言われるとか、健康管理ができていないと叱責されることをさすようだ。

インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く)は第2種の感染症に定められており、学校保健法では発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで学校への出席停止とされている。ただし、病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りでない。 一般に、成人においてもこの目安が用いられている。ちなみにインフルエンザの潜伏期は1~3日で、発症する前日からすでに感染性がある。

対症療法としての解熱剤、ことにアスピリンは、ライ症侯群との関係が推測されており、小児への使用は原則禁忌である。また、インフルエンザ脳症の悪化因子として、非ステロイド系解熱剤のうちジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸は同じく小児には基本的に使用しないように、とされている。解熱剤が必要な場合は、なるべくアセトアミノフェンを使用する。

 

 

職域健康診断の覚書

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康雲堂はもともと小児科医である(であった)。

小児期に手術を受けたり、慢性疾患があって経過観察する患者が、やがて成人になっても継続して診療を希望され成人内科の領域にも携わるようになった。

最近では巡回健康診断で成人や高齢者の診察の手伝いもするようになったので、現在では小児科・内科医と言ったほうが正確だ(内科・小児科医ではない)。

職域健康診断の一次健診では問診と胸部の聴診、必要な場合に神経反射や口腔、鼻腔、皮疹の有無などをチェックする。

先日、某有名IT企業の35歳以下を対象とした巡回職場健診に参加した。一次健診なので採血やレントゲン所見などの詳細は不明で、自覚症状や既往歴のチェック、体重や血圧の評価に加えて内科検診を実施する。

若年者の健診だったのに、肥満、高血圧、高脂血症治療中、頭痛、気分障害など、多彩な有所見者や病歴のある若者がいた。IT関連産業の過酷さを背景にしているのだろう。週末は休みを取れているようだが、週日は深夜の帰宅、不規則な食事、コンピュータやモニターの長時間作業など、原因はさまざまだが、生活習慣病予備軍が大勢いた。

 * * *

外来診療とは違う健康診断で鑑別として頭の隅に置いておかなければならないポイントを記録しておく。

〇治療中の難治性高血圧:原発性アルドステロン症

〇頻発する頭痛:緊張性頭痛(肩こり)と運動不足、前兆のない片頭痛うつ病

気分障害うつ状態:副腎不全、更年期障害

〇急激な体重増加:脂質代謝異常と高尿酸血症の食事改善

〇体重減少:甲状腺機能亢進症

〇下痢や腹痛:プロトンポンプ阻害薬の副作用、顕微鏡的大腸炎

〇便秘:薬剤性便秘、最近の薬剤変更、抗ヒスタミン剤の内服、Ca拮抗薬

更年期障害うつ病

 

 

 

 

 

こどもの急性上気道炎

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こどもの風邪診療の続きを書く。

夜間救急外来を受診する9割以上のこどもの主訴は発熱である。

発熱、咳嗽、鼻汁を診たら急性上気道炎を考える。

このうち発熱があれば、溶連菌感染(迅速検査)、インフルエンザウイルス(迅速検査)、アデノウイルス(迅速検査)、ライノウイルス、ヒトコロナウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス、エンテロウイルス手足口病、夏場であればヘルパンギーナ)、伝染性単核球症EBウイルスまたはサイトメガロウイルス)、突発性発疹(ヒトヘルペスウイルス6Bと7)などの感染のどれかである。

咽頭扁桃)に白苔があれば、A群溶連菌かアデノウイルス感染を疑う。溶連菌では咳嗽がないことも多い。これらの迅速検査が陰性であればEBウイルスサイトメガロウイルス感染による伝染性単核球症を除外する。頸部リンパ節腫脹があれば、肝腫大のチェックと末梢血検査(血算)が必要である。伝染性単核球症ではペニシリン系抗生剤で皮疹を誘発するため投与しない。こどもの発熱では必ず喉をみなければならないし、扁桃の白苔を診ていきなり抗生剤を投与してはならない。

発熱がなく、急性の咳嗽と鼻汁であれば、ライノウイルス(迅速検査なし)、ヒトコロナウイルス、RSウイルス(迅速検査があるが、乳児期のみ検査する意義がある)、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルスのどれかである。とくにライノウイルス感染の頻度が高いが、次に頻度が高いヒトコロナウイルスと共に、日常診療では迅速検査ができないので原因診断は難しい。

RSウイルスは迅速検査があるが、1歳以上では保険適応がない。乳児で発熱や遷延性の咳嗽、喘鳴、鼻汁が多い場合にはRSウイルスの感染が疑われる。新生児や乳児期早期では病初期に無呼吸を伴う高度のチアノーゼを呈することがあり、見逃せない感染症であるが、RSウイルス感染については別稿で詳しく記載したい。

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上気道炎症状の続いて、遷延する咳嗽では百日咳、マイコプラズマ、クラミドフィラ・ニューモニエをなどの感染を鑑別診断しなければならない。

乾性咳嗽が続き、喘鳴がなく、発熱が3日以上続く場合には、マイコプラズマあるいはヒトメタニューモウイルス感染を考える。マイコプラズマ抗原は迅速検査がある。ヒトメタニューモウイルスの迅速検査は6歳未満で肺炎が疑われれば保険適応がある。クラミドフィラ・ニューモニエには迅速検査がなく診断には血中抗体検査が必要である。胸部X線所見で肺炎像があり、聴診上cracklesを聴取しない場合にはマイコプラズマあるいはクラミドフィラ・ニューモニエ感染を念頭に置く。

 * * *f:id:koundo_clinic_VR:20191120155209p:plain

多くの急性上気道炎は抗生物質治療が不要の急性ウイルス性上気道炎であるが、A群溶連菌は抗生剤投与の適応である。ピボキシル系セフェム(メイアクトやフロモックス)は深刻なカルニチン血症を誘発しけんれんの原因となるので、第一選択はペニシリン系(アモキシシリンなど)10日間投与を選択する。

上気道感染から下気道感染に移行する、あるいは病初期からは気管支炎や肺炎で発症する発熱や咳嗽もあるので、風邪はウイルス性で自然治癒する良性疾患と侮ってはいけない。症状の経過や理学所見、迅速診断を利用して見逃しのない診療を心がける必要がある。