こどもの風邪診療

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康雲堂医院は、質が高く、費用対効果に優れ、患者さんへの負担が少ない低侵襲の医療を提供する一次診療機関を目指したい。

昔はどこにでもあった町角のお豆腐屋さんのように、いつでも同じものを同じよう提供する、地域になくてはならない診療所。地味だけれど毎日の生活に潤いと安らぎを与えてくれる四角四面のお豆腐のようなお医者さんがいる診療所。それが康雲堂医院が目指す理想の姿だ。

難しい処置や治療は大きな病院や専門医療機関に任せて、見落としのない、安心な医療をめざし、家族一人ひとりの健康の維持と増進に貢献できる、無力ではあっても頼りになるgeneralistのお医者さんであることがクリニックの基本理念である。

 * * *

街角にジングルベルの調べが鳴り響く頃、巷は風邪の季節を迎える。

高熱をともなうインフルエンザをはじめ鼻水、のどの痛み、咳、発熱、時には下痢や嘔吐をともなう風邪症候群の急増は冬の年中行事だ。

今は亡き恩師のI教授によれば、こどもは年に5回風邪をひく。風邪は5日間で治る。そう教わった。どこの教科書にも書いていない、奥義のような教えに感心したものだった。

実際に診療に従事してみるとそう単純ではない。おそらくふつうの風邪は五日でピークを過ぎるという経験則からの教えだったのだろう。その意味では当たっている。

風邪は万病のもと。でも生活習慣病の大人や隠れた持病のある高齢者と違って、こどもの感冒症状のほとんどは急性感染症によるものである。その多くが自然治癒する。

この10年間でこどもの風邪症候群の診療は著しく変容した。

なんといっても、乳幼児期の予防接種が普及して入院治療が必要なこじれた重症患者が激減したことと細菌やウイルスなどの感染源に対するなどの迅速診断がどこでもできるようになったことでほとんどの風邪様症状(急性上気道炎症状)の患者は外来診療で対応できるようになったことだ。おかげで不必要な抗生物質や合併症を起こす可能性がある抗炎症剤を使わなくてすむようになった。

迅速診断のない昔はインフルエンザも流行性感冒(略して流感)と呼ばれていた。高熱をともなう風邪が集団発生することでこう呼ばれていた。

一方、免疫力が整っていない乳幼児は風邪症状によって始まる重い病気や重篤な合併症を起こす感染症もないわけではない。見極めと適切な対応が重要だ。

今でも、やっぱり「風邪はあなどれない」のである。

〇外来でできる病原体の迅速診断

・溶連菌

・インフルエンザウイルス

アデノウイルス

・RSウイルス

マイコプラズマ抗原

・ヒトメタニューモウイルス

ロタウイルス(便)

アデノウイルス(便)

ノロウイルス(便)

 外来でできる迅速検査は保険適用に年齢制限や病態(肺炎疑いなど)が決まっている。それについてはいずれ「こどもの予防接種」とともにまとめて記載したい。

なお、迅速検査ではなく結果が出るまで数日かかる外注検査になるがマイコプラズマLAMP、百日咳菌LAMPは未治療の病初期患者では感度、特異度ともにがきわめてすぐれている。疑った場合には試みてよい検査である。

 

マイコプラズマの家族内感染

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身近にマイコプラズマの家族内感染を経験したので復習しておく。

マイコプラズマは小さな病原体で、細菌に分類されるが細胞膜がなく、ウイルスと細菌の中間に属するような性質をもつ。

飛沫感染あるいは接触感染で感染力は強く、しばしば濃厚接触のある家族内で蔓延する。

マイコプラズマ感染は自然治癒するが、時に重症化することがある。

・肺炎(下気道感染)、髄膜炎、心筋炎、胸膜線、ギランバレー症候群、多形滲出性紅斑の原因となる。

・潜伏期は1~4週間。

・上気道炎症状で発症し、発熱が3日(72時間)以上続く場合にはマイコプラズマ感染を疑う。

・迅速診断(マイコプラズマ抗原)があるが、感度は高くない(最近のキットは改善しているという)。

・確定診断は血清診断であるが、マイコプラズマLAMP(遺伝子診断)は数日で結果がでるのでよい。

・4歳以上で、咳と発熱が続くが全身状態は比較的良好で、胸部聴診所見でcrackleを聴取せず、X線で肺炎があれば、マイコプラズマ肺炎を疑う。

・感染源は家族内感染が多い(40%の報告あり)

マイコプラズマLAMPが陰性ならば、クラミドフィラ・ニューモニエ感染を考える(血清抗体測定)。

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第一選択:アジスロマイシン(ジスロマック) 10㎎/kg/日 1日1回・3日(成人400~500㎎/日)

 あるいは、クラリスロマイシン(クラリス) 10~15㎎/日 分2~3・10日(成人400㎎~800㎎/日)

第二選択:第一選択薬で48時間以上発熱が続く場合

 ・8歳以上 ミノサイクリン(ミノマイシン) 4㎎/kg/日 分2・7日(成人200㎎/日)

 ・8歳未満 トスフロキサシン(オゼックス) 12㎎/kg/日 分2・7日

 トスフロキサシンはニューキノロン系、クラリスやエリスロシンの細粒には独特の苦みがあるので、錠剤が飲めない年少児では第一選択でもよいか(明治はイチゴ味だそう)。成人300~600㎎/日)

上記に加えて、L-カルボシステインムコダイン)30㎎/kg/日 分3、アンブロキソール(ムコソルバン)0.9㎎/kg/日 分3を処方。喘鳴あればツロプテロール(ホクナリン)テープ追加。

付記 マクロライドへの耐性菌が多い(15~80%超らしい)。8歳以上で発熱が続いていれば最初からミノマイシンでいいかもしれない。細胞膜がない構造上、ミノマイシンへの耐性は獲得できない。

   インフルエンザが流行期に入った

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厚労省の11月15日の発表によると、昨年より4週早くインフルエンザが流行期に入った。

11月4日~10日の1週間で定点当たりの患者数が1.03人となり、流行入りの目安となる1.0を越えた。患者が多いのは沖縄4.45人、鹿児島2.66人、長崎2.31と西日本で目立つが、青森でも2.48人となっており、すでに全国的な流行が目前だ。

今年も抗インフルエンザ薬については、格別の話題があった。

昨シーズン爆発的な売れ行きを上げた、一回の内服だけで有効なゾフルーザ(一般名バロキサビル・マルボキシル)の投与について、日本小児科学会や日本感染症学会がインフルエンザの治療指針において、ゾフルーザの12歳未満患者への積極的な投与を推奨しない、と公表した。他の抗インフルエンザ薬と同等の効果はあるが、耐性ウイルスの出現が懸念されるためだ。当面は小児への投与は差し控えになるのだろう(指針では慎重に検討することと表現されている)。

一方、一時中止されていたタミフル(一般名オセルタミビル)の10歳以上への投与は昨年度(2018年)から許可された。あわせて、タミフルに限らず、インフルエンザによる発熱発症から2日間は異常行動には注意するよう保護者や家族に説明することが求められている。

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巷間、インフルの予防接種は効かないと言って、受けないと声高に言いはる人がいる。ワクチンの効能は感染を阻止するのではなく、発症を抑制し症状を軽減するでこと、であることがあまり理解されていない。ワクチンが効くの?、効かないの? と質問をよく受けるが(ワクチン不信感?)、重症化の阻止や病状の軽減に予防接種は受ける意味があることをその都度、伝えている。高齢者や集団生活が必要なこども達ははぜひ受けてほしい。

鼻にスプレイするだけの国産経鼻インフルエンザワクチンを阪大微生物病研究会が開発した。治験が今年7月に終わり、近く国へ承認申請すると報道された(東京新聞、11月16日)。米国では鼻に噴霧する生ワクチン「フルミスト」が販売されているが発熱などの副作用で高齢者や乳幼児には使えない。第一三共が承認申請中で、国の審査中という。阪大微研の開発したものは不活化ワクチンで副作用が少ないらしい。承認されれば、痛いインフルの予防注射はなくなるかもしれない。

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タミフル(オセルタミビル):ドライシロップ(3%)、カプセル75㎎

リレンザ(ザナミビル):5㎎ブリスター(1個)

イナビルラニナミビル):吸入粉末剤20㎎

ゾフルーザ(バロキサビル・マルボキシル):10㎎錠、20㎎錠、顆粒2%分包

ラピアクタ(ペラミビル):点滴静注液バック300㎎、点滴静注液バイアル150㎎

一般名がなかなっか覚えられないのが悩みだ。

 

 

   紙 上 訓 練

f:id:koundo_clinic_VR:20191120155209p:plain康雲堂医院はインターネット上のヴァーチャル・クリニックであるf:id:koundo_clinic_VR:20191120154725p:plain

次は紙上訓練だ。あるいは机上訓練。

問題集はこれ。

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外来診療ドリル.診断&マネジメント力を鍛える200問(松村真司/矢吹拓編集)」(医学書院、4200円+税)

これは手強い。結構、内容が難しい。

(あえて一言加えるとすれば、診断に際する画像が提示されないのが残念だ。)

正解するには中級以上の診療能力が必要だ。それも全般的な総合力が要求される。

ふつう教科書は症候(症状)あるいは病態、診断名から詳細な解説や記載が始まる。

実際の患者の多くは複数の症状を持つことが多いし、年齢や性別で診断のプロセスが異なるのが通例だ。

現実に患者を目の前にした場合、教科書やマニュアルだけでは対応できないことのほうが多い。

結果としてただの風邪かもしれないし、風邪は万病の素、始めはただの風邪が実は重い病気のはじまりかもしれないし、はたまた全く違う病気のこともある。

複雑系への柔軟性が問われるのだ。

柔軟な診療には知識と判断力が要求される。

あるいは条件反射的なひらめきが必要だ。

それには日頃から感度を上げておかないとならない。

感度と特異度。真実はあとから判明する。

つねに後医は前医より名医である!

罵られないように、マニュアル、教科書、問題集は再教育の三大柱であることを忘れないようにしよう。

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昔取った杵柄をすっかり捨てて、初期研修にもどった気になって。

コツコツ、勉強部屋にこもって勉強しよう。

新しい酒は新しい袋に詰めよ!

この際だから勉強机も新調しよう。

 

   再 教 育

f:id:koundo_clinic_VR:20191120155209p:plain康雲堂医院はインターネット上のヴァーチャル・クリニックであるf:id:koundo_clinic_VR:20191120154725p:plain

仕事を再開するにあたって、まずやぶ度を自己評価。

使った資料はこれ。

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「総合診療 2019年 9月号 特集 “ヤブ化”を防ぐ!「外来診療」基本のき医学書院発行、2500円+税

藪蚊ではなく「やぶ化」である。

最初に「やぶ」度を判定するセルフチェックがある。

やってみるとなかなか厳しい判定だ。合格すれすれ。これはイカンゾ!

おとなの健診業務はしばらくはこれで再勉強。

こどもの診療はこれ。

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初期研修医・総合診療医のための 小児科ファーストタッチ岡本光宏・著(じほう、4000円+税)

このマニュアルはエッセンスが書いてありすぐ実践に役に立ちそうだ。

この本には予防接種のことが書いていないので、それはまた別に勉強が必要だ。

どちらの本もベストセラー。

最近の診断基準やチェックポイント、初療と基本的な診療における処方についても書いてある。

医学はすごい勢いで進歩している。

迅速検査が導入されたり、診療ガイドラインがつぎつぎ更新されたりで暇がない。

時間を作ってまずはこの2冊を繰り返し読んで制覇しよう!

勉強するには通勤時間がちょうどいい。

 

ようやく開院です(祝!)

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長いこと中断していた診療を再開しました。

これを機会にHatena Blogにヴァーチャルクリニック、康雲堂医院を開院します。

 

とりあえず、大人とこどもの日常診療や健診などを行いたいと思っています。

 

医療に関する最近の話題や進歩、いまどきの世の中のことを備忘録がわりに、つれづれに書きたいと思います。

    

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